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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)3065号 判決

本店所在地

東京都中央区銀座六丁目六番一九号

野田アスベスト株式会社

(右代表者代表取締役関口金吉)

本籍及び住居

千葉県野田市目吹二三七五番地

会社役員

関口金吉

大正二年七月一五日生

右両名に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官上田勇夫、弁護人神宮壽雄出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一、被告人野田アスベスト株式会社を罰金二六〇〇万円に、被告人関口金吉を懲役一年二月にそれぞれ処する。

二、被告人関口金吉に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人野田アスベスト株式会社(以下被告会社という)は、東京都中央区銀座六丁目六番一九号(昭和五八年三月三一日までは千葉県野田市目吹二三七五番地)に本店を置き、保温・保冷工事及び材料販売等を目的とする資本金一〇一二万五〇〇〇円の株式会社であり、被告人関口金吉(以下単に被告人という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空の外注工事費、外注工賃、賃金給与、仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和五四年一〇月一日から同五五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六〇九七万八二〇二円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)にかかわらず、同五五年一一月二九日、千葉県松戸市大字小根本五三番地の三所在の所轄松戸税務署において同税務署長に対し、その所得金額が三四〇万四〇六九円でこれに対する法人税額が六九万四八〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(昭和五九年押第八号の一)を提出してそのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二三二九万二九〇〇円と右申告税額との差額二二五九万八一〇〇円(税額については別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五五年一〇月一日から同五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七五八〇万一六二五円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)にかかわらず、同五六年一一月三〇日、前記松戸税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五四〇万七七〇八円でこれに対する法人税額が一二〇万六八〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書(前同押号の三)を提出してそのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額三〇四六万一一〇〇円と右申告税額との差額二九二五万四三〇〇円(税額については別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五六年一〇月一日から同五七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九一二〇万八六〇八円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)にかかわらず、同五七年一一月三〇日、千葉県柏市柏一丁目二番一八号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が一九万三九八四円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽過少の法人税確定申告書(前同押号の三)を提出してそのまま法定納期限を徒過し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額三六八九万〇二〇〇円(税額については別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(誠拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述、検察官に対する供述調書三通

一、関口紀一、鳥海孝子、馬場カネの検察官に対する各供述調書

判示各修正損益計算書の金額、特に当期増減金額欄の内容につき

一、大蔵事務官作成の各調書一八通

虚偽過少の申告をした事実及び判示各修正損益計算書中公表金額欄及び税額計算書中申告額欄の内容につき

一、法人税確定申告書三通(昭和五九年押第八号の一ないし三)

(法令の適用)

被告会社の判示第一の所為は昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条、一六四条一項に、判示第二、第三の各所為は右改正後の法人税法一五九条、一六四条一項に、被告人の判示第一の所為は行為時において右改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項に、判示第二、第三の各所為は右改正後の法人税法一五九条一項に、それぞれ該当するが、被告人の判示第一の罪は犯罪後の法令により刑の変更があった場合に該当するから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告会社の判示各罪はいずれも免れた法人税の額が五〇〇万円をこえる場合であるから情状により免れた各法人税の額に相当する金額以下において処断し、被告人については各罪につき懲役刑を選択し、被告会社、被告人の判示各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから被告会社については同法四八条二項によりその合算額の範囲内で、被告人については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、主文第一項記載のとおりの各刑に処し、被告人については後記のとおり情状憫諒すべきものがあるから同法二五条一項を適用し、主文第二項記載のとおり右刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件はビル等に設置されたダクト、配管の保温・保冷工事等を行う被告会社の代表者である被告人が被告会社の各工事ごとに架空の外注工事費、外注工賃、賃金給与、仕入を計上するなどの方法によって所得を秘匿し、虚偽過少の申告をすることにより、判示のとおり三事業年度で合計八八七四万円余の法人税を逋脱し、これを一部簿外交際費にあてたほか、かなり多くの部分を自己の用途に振り向け費消していたものであって、その逋脱税額の正当税額に占める割合、即ち逋脱率は九六%ないし一〇〇%に達し、しかもこのような方法による被告会社の脱税はかなり以前から行なわれていたものである等の事実に鑑みれば被告人らの刑事責任は重いものがあるといわなければならない。しかしながら、被告人は本件脱税が発覚して以降は反省し、調査、捜査にはすすんで協力し、判示の三事業年度を含む五事業年度につき修正申告をなしてこれを完納しているほか、延滞税、加算税や地方税についてもその一部を納付済みであるほか納付予定であること、被告人は他に何らの前科前歴なく被告会社を経営して業界からも信頼され、今日に至っているものであって、これら被告人らの情状を考える上で有利となるべき事実をも併せ考えるべきものである。そこで当裁判所は以上のほか本件の審理に顕れた一切の情状をも総合勘案し、主文のとおり量刑するのを相当と認めた次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田真一)

別紙(一)

修正損益計算書(一)

野田アスベスト株式会社

自 昭和54年10月1日

至 昭和55年9月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

野田アスベスト株式会社

自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

修正損益計算書

野田アスベスト株式会社

自 昭和56年10月1日

至 昭和57年9月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四)

(1) 税額計算書

野田アスベスト株式会社

自 昭和54年10月1日

至 昭和55年9月30日

〈省略〉

(2) 自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

〈省略〉

(3) 税額計算書

自 昭和56年10月1日

至 昭和57年9月30日

〈省略〉

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